■ はじめに|“なんとなく心地いい”の正体
「サイゼって、なんか落ち着くよね」
現役店長時代、お客様から何度もそう言われました。
でも、その“なんとなくの心地よさ”には、実はしっかりとした「整える設計思想」があるんです。
今回は、私が13年間サイゼリヤの店長として現場に立ってきた経験から、「整える空間づくり」について語ってみたいと思います。
■ サイゼリヤが整えているのは「味」だけじゃない
◎ メニューの数が少ないのは、“選ばせない”ため
サイゼのメニューは驚くほどシンプル。
定番メニューを中心に、季節ごとの変化も最小限。
でもこれは「コスト削減」や「オペレーション簡略化」だけが理由ではありません。
選択肢が多すぎると、人は疲れます。
「決める」ことに時間を使わせない=お客様の心を整えるための設計です。
◎ 店内レイアウトはどこも似ている
どの店舗に行っても、テーブルの間隔、照明、導線はほぼ共通。
これは「効率化」のためであると同時に、「安心感」を与えるため。
- はじめての店でも緊張しない
- 子どもや高齢の方でもスムーズに動ける
- 店員も「迷わない」「失敗しない」
誰にとっても“わかりやすく整った空間”になっていることで、自由にくつろげる余白が生まれます。
◎ BGMにはイタリアのカンツォーネ
実はサイゼリヤにはBGMがあります。
流れているのは、イタリアのカンツォーネ。
これはただの雰囲気づくりではなく、空間全体を“整える音”なんです。
- 店内の音を邪魔しない控えめな音量
- 料理の国籍とマッチした一貫性
- 過度にテンションを上げない、心のトーンを落ち着ける選曲
「静かすぎず、うるさすぎず」──
聞き流せる音で、食事と会話を“邪魔しない”設計。ここにもサイゼの哲学が息づいています。
■ 「整った空間」は、自分の心まで整えてくれる
サイゼリヤが目指すのは、主張しすぎない快適さです。
それはまるで、“思いやりのある静けさ”。
この考え方って、実は私たちの日常にも応用できます。
- 自宅や職場の空間を、必要なものだけに絞ってみる
- 選択肢が多すぎる生活から、ちょっと引いてみる
- 音や光、視覚的な「情報量」を意識的に減らす
→ そうするだけで、自分の思考や感情が自然に整ってくることに気づきます。
■ まとめ|整えることは、誰かの自由をつくること
サイゼリヤが整えているのは、オペレーションでも料理でもなく、**お客様の“気持ち”**です。
そしてそれは、「好きにくつろいでいいんですよ」と言葉なく伝えるような、目立たないやさしさ。
整えるというのは、決して「縛る」ことではありません。
むしろ、「自由にしていい余白をつくること」。
サイゼの店内には、そんな見えない哲学が満ちているのです。